欅並子の馬ウマ日記

競馬歴28年で、東京競馬場が主戦の競馬ライター、欅並子(けやきなみこ)がいろいろ書いてます。競馬予想、競馬文化にまつわるいろいろな出来事を、私目線でレポートします。競馬って、馬券を当てる以外にもいろいろ楽しいこと、ありますよね!(馬券も当てたいけどね)ほぼ毎日更新。

わたしが大好きだった馬【ヒシナタリー】

 

こんにちは、欅並子です。

 

この子は、だあれ?

ヒシナタリーです。

前回ご紹介した「わたしが大好きだった馬」のヒシアマゾンに比べれば、それほどメジャーな馬ではありませんし、繁殖の成績もパッとしなかったので、今となってはあまり覚えている方も多くはないかもしれません。

 

ヒシナタリーは、ヒシアマゾンの2歳下の牝馬です。

3歳の春にフラワーカップで重賞を初勝利した時にその存在を知りました。

ヒシアマゾンに負けず劣らずの追い込みの脚質で、最後の直線で軽やかに他の馬たちを抜き去っていく勝ちっぷりが気持ち良い馬です。

青鹿毛の美人さんで、見た目もものすごくタイプでしたね。

 

ヒシアマゾンと同じ冠名ですが、関東馬だったヒシアマゾンに対して、ヒシナタリーは関西馬だったので、より身近にも感じましたし、3歳の間はなんと夏も休まずほぼ毎月出走するようなローテーションだったため、応援のしがいがあったんですよね。

2歳の11月にデビューですからちょっと遅めですが、そこから3歳の年末までに15戦6勝。うち、重賞はG3とG2をそれぞれ2勝しています。

当時はそんなもんかと思っていましたが、今競馬のことがもう少しわかるようになってから振り返ってみると、G1が狙えるほどの3歳馬のローテーションとして、これはちょっと使いすぎではなかったか、と思わざるを得ません。

実際、ヒシナタリーは、4歳になってやっともらえた4ヶ月の休養明け、久々に出走したレース中に負傷して、そのまま引退することになってしまいました。

その最後のレースを、わたしは目の前で見ていました。

 

1997年4月19日 オーストラリアトロフィー(OP) 京都競馬場

これが最後のレースのパドックで撮った写真ですね。

実は、今まで見てきた感じからすると、ちょっと元気がなくて華奢に見えたんですよね。後から考えるからそう思うのかも知れないですけどね。

レースは一番最後の着順でもなんとか走りきってから騎手が下馬していたので命は大丈夫だろうと思いましたが、痛々しい歩様で地下馬道へ引き上げていく後ろ姿を見て、ちょっと競走生活を続けるのは難しいかなと思いました。

まだ4歳、これからもたくさん活躍して、まだ何度でも競馬場で会えると思っていたのに、別れはあまりも突然でした。

 

また、それから1ヶ月も経たない頃に、ヒシアマゾンの引退の知らせが舞い込みます。

 

さて。

その年の夏わたしは、ヒシアマゾンに会うために北海道の牧場へ行ったと書きましたが、実はその同じ牧場にヒシナタリーも繋養されているという情報を得ていましたので、ヒシアマゾンを訪ねた時に牧場の方にナタリーの近況を尋ねることにしました。まずは、引退の元になった怪我のことが心配でした。

ヒシアマゾンの柵の前で、ヒシナタリーのことがヒシアマゾンと同じくらいかそれ以上に好きだったと熱弁してくる単身旅行の女なんか、絶対ちょっとヘンだったと思うんですが、勢いに押されたのか、牧場の方は「じゃ、会っていくかい」と、もともと一般公開していなかったヒシナタリーのもとへ案内してくれました。

 

 

ナタリーは、ヒシアマゾンのひとり暮らしの放牧地とは道路を挟んで反対側に設けられた一角にある、狭い馬場にいました。あまり日が当たらない馬場には水たまりができていて、ナタリーはその水たまりの後ろでじっとしたままこちらを見ていました。

牧場の方が言うには、動き回るとレースで傷めた右前脚が腫れてくるので、まだ広いところには放牧できないとのこと。また、日に当たっても腫れるので日当たりの良いところにも出せないと。

ただ、痛みはもうおそらく引いているし、この怪我は繁殖生活には全く影響がない程度ではあると教えてくれました。

ヒシナタリーはとてもおとなしい馬で、わたしが近くにいる間もほとんど動くことはありませんでした。

牧場の方によると、「よく走る馬ほど、休んでる時はボーッとしておとなしいもんだよ」とのこと。そうじゃないと、消耗してしまってレースで力が出せないのだということです。

 

牧場の方に許可をいただき、少しだけ体に触らせてもらうことができました。

口元に手を近づけると、手のひらの上でもごもごと口を動かしたあと、鼻からあったかい息をかけてくれました。

ナタリーとこんな風に穏やかなひとときを共有できたことは、わたしの競馬の思い出の中でも一番の宝物になっています。

牧場の方には今でもとても感謝しています。

 

ナタリーとは、次の年の夏にもまた同じ牧場で再会することができました。

アマゾンと同じようにアメリカで繁殖生活を送ることになり、出発までの間アマゾンと同じように一般見学者に公開されることになったのです。

 

今度は、アマゾンが前の夏に使っていたひとりぐらしの放牧地に移されて、元気に歩き回るナタリーの姿を見ることができました。

 

5歳のお姉さんになったナタリー。

やっぱり、前の年より全然元気そうな顔してますよね。余裕綽々。

 

ヒシナタリーのことを書くにあたって昔のレースを振り返ってみようかと思いましたが、ヒシアマゾンの時のようにザクザクと動画が出てきたりはしませんでした。

いつまでも語り継がれる馬はほんの一握りで、ほとんどの馬は忘れ去られていく運命です。

 

だけど、だからこそ、わたしにしかわからない、わたしにしか書けない話があるのかもしれませんね。

わたしはずっとナタリーのこと忘れないよ。