欅並子の馬ウマ日記

競馬歴28年で、東京競馬場が主戦の競馬ライター、欅並子(けやきなみこ)がいろいろ書いてます。競馬予想、競馬文化にまつわるいろいろな出来事を、私目線でレポートします。競馬って、馬券を当てる以外にもいろいろ楽しいこと、ありますよね!(馬券も当てたいけどね)ほぼ毎日更新。

わたしが競馬を好きになる下地を作った本 小説「優駿」

こんにちは、欅並子です。

 

昨日に続き、今日も読書に関係する話をしようと思います。

わたしが競馬を好きになったきっかけを人に聞かれれば、いつも、「テレビゲームのソフトにハマったことがきっかけです」と話しています。

直接的なきっかけとしては実際にゲームで遊んだことが重要なポイントですし、その話もいずれは詳しく話したいと思っているのですが、今日は、それよりももっと前に、わたしは競馬に対して好意を抱くきっかけになるものと出会っていたんだよね、という話をします。

 

わたしがゲームソフトにハマって競馬を見るようになったのは1995年のことで、当時大学2年生でしたが、それよりもさらに遡っておそらくまだ高校生だった頃に、わたしは「優駿」という小説を読みました。

「優駿」は宮本輝が書いた小説で、1986年に上下巻で刊行されたものです。わたしはその当時のことはあまりよく知りませんが、ベストセラーになったようです。

母が宮本輝のファンで、当時は宮本氏の作品はだいたい家にあったので、わたしは勝手に本棚から出して読んだのだと思います。

 

この小説は、北海道の小さな牧場で生まれた1頭の馬「オラシオン」が、ダービーに挑戦するまでを描いたストーリーです。

主人公は、オラシオンと、彼を取り巻く沢山の人々。

たとえば生産した牧場の父子、馬主となる会社経営者の男性とその娘、主戦を務めることになる騎手や調教師など、様々な立場で関わった人たちそれぞれの物語がオラシオンを中心に交錯し、それぞれに挫折や苦悩の中から光を見つけ出す様子を描いた作品です。

登場人物がみんな、ちょっと屈折していて不器用ながらも、それぞれに強烈な魅力があって、それらの人たちの思いが絡み合うことによって生まれる複雑な味わいが存分に楽しめる、とても読み応えのある作品です。

高校生当時も、「マジで面白いから読んで!」と、乏しい語彙で周囲の友達にも勧めたりもしたものです。

 

当時は身の回りに競馬が好きな人もいませんでしたし、さすがのわたしもまだまだそこから直接リアルな競馬に興味を持つようなことはありませんでしたが、この小説のおかげで、わたしの中の競馬に対する好感度は間違いなく上がりました。

競馬ってなんかロマンがあってちょっと素敵なものかもしれない、と、心の底にしっかり刻まれたことは確かです。

そういう意味で、まさに、わたしが競馬を好きになる下地を作った本だと言っていいでしょう。

 

今、この記事を書くにあたって調べてみたところ、「優駿」は1987年に創設されたJRA馬事文化賞の最初の受賞作品だったとのこと。

JRA馬事文化賞とは、「当該年度において文学、評論、美術、映画、音楽、写真、公演等を通じ馬事文化の発展に特に顕著な功績のあった者に授与するもの」とされています。

わたしと同じように「優駿」を読んだことで競馬に好意を持った人も多いはずで、それが、馬事文化の周辺に優秀な人材を集めるきっかけにもなったかもしれません。

ひょっとして、この作品になんか賞をあげたくて、新しく賞を作ったんじゃないかぐらい思ってしまいます。もちろん、そんなことはわたしが勝手に思っているだけですが。

 

競馬にハマってから改めて再読しても、やはりとても面白くて素晴らしい作品だと思ったのですが、わたしは、競走馬は古馬になってからが本番と思っているところがあるので、ダービーのシーンで終わりになってしまうのは少し物足りない気がしました。

本当はオラシオンの有馬記念とか見てみたかったなーと思います。

 

今このブログを読んでくれている人にも、もちろんこの「優駿」という作品は絶賛オススメなのですが、いかんせん、書かれた時代からずいぶん時間が流れてしまいました。

競馬の世界はこの30年ですっかり様変わりしてしまいましたし、競馬の世界だけでなく、例えば世の中の人の扱い方やジェンダーの感覚なんかもかなり変わってしまったので、その辺りが引っかかって読みづらくなっているところもあるんじゃないかという気がします。

もちろん、そんなことで作品の価値が下がったりはしませんが、それはそれとして、最近の競馬を舞台にした新しい競馬小説も、あればまた読んでみたいなと思います。

 

面白い作品があったら、こちらでもまた紹介していきますね。