欅並子の馬ウマ日記

競馬歴28年で、東京競馬場が主戦の競馬ライター、欅並子(けやきなみこ)がいろいろ書いてます。競馬予想、競馬文化にまつわるいろいろな出来事を、私目線でレポートします。競馬って、馬券を当てる以外にもいろいろ楽しいこと、ありますよね!(馬券も当てたいけどね)ほぼ毎日更新。

有馬記念の季節にオススメの競馬小説「ザ・ロイヤルファミリー」

こんにちは、欅並子です。

 

いよいよ今週は有馬記念です。

今はまだ師走の忙しい時期ですが、年末年始のお休みに読書はいかがでしょうか。

有馬記念に強い思い入れと因縁がある馬主一家と、その家族に仕える「秘書」の物語「ザ・ロイヤルファミリー」(早見和真)を読みましたので、ご紹介します。

 

ザ・ロイヤルファミリー(新潮文庫) Kindle版

 

この小説は、2020年にJRAの馬事文化賞と文学賞である山本周五郎賞を同時に受賞した作品です。

JRAの馬事文化賞を受賞した文学作品といえば、1987年に初代の馬事文化賞を受賞した「優駿」という小説のことがまず頭に浮かびます。

この小説を読んだことが現在競馬ファンをやっている下地になっているということは、先日このブログでも書きました。

 

www.keyaki-namiko.com

 

「ザ・ロイヤルファミリー」は現代の中央競馬を舞台にした文学作品としては「優駿」以来の受賞だと思われます。

この小説は、中央競馬のとある著名な馬主の秘書になった男性が主人公で、その人の視点から一人称で綴られる物語です。

主人公が仕える「社長」は本業のビジネスにおいても馬主としても、どちらかと言えば良い評判より悪い評判のほうが多く聞かれる人物です。

そんな社長に振り回される日々の中、主人公は、会社員という「庶民」の立場から、華やかでちょっと特殊な競馬サークルの有様を、時には憧れを持って、時には憎しみを込めて描きます。

もちろん登場人物や馬、会社名などは全てフィクションですが、中央競馬のレース名やレース体系は現実のものをそのまま使っています。

次はどのレースを使うだとか、この時期に怪我をしたらクラシックは絶望だとか、そういう話もとてもリアルです。

書評などでは「競馬が好きな人にもそうでない人にも楽しめる」という風に書かれているのも多く見かけますが、競馬好きの立場からすると、やはり競馬のことを知らないよりは知っている方が何倍も楽しめる作品だと思います。

なにしろ、物語の中で話題が競馬から離れることはほとんどなく、読んでいる間中、ずーっと頭の中が競馬に占領されている感じになりますから。

もちろん、この本がきっかけで競馬に興味を持ったり、もっと知りたくていろいろ調べるうちに競馬が好きになる人がいたりもするでしょう。

競馬を知らない読者にも、競馬に関心を持つきっかけをもたらす作品だというところからの、「馬事文化賞」なのだろうと思いました。

 

競馬の世界に光と影があるとすれば、この物語では圧倒的に「影」の部分が描かれています。

リアリティを考えると、競馬、それも「競走馬を持つ」なんてことはものすごく難しいことです。せっかく馬を持ってもほぼ夢も目標も叶わないのが当たり前のような世界かもしれません。とはいえ、フィクションのくせになかなか夢も叶わず目標も達成できないのは、ちょっとしんどく感じることもありました。

もちろん、完全に「好み」の問題になりますが。

ごくごくたまにある歓喜の瞬間はアッサリと1行とかでサラッと書かれる傾向が強く、最後に負けるレースほど、パドックからゲート、スタートから各コーナー、ゴールに至るまで逐一丁寧に描写されることが多いです。

レースのシーンが克明に描かれ始めると、「あ、このレース、負けるヤツだわ」ってだんだんわかるようになってくるんですね。

と、まあそんな具合になかなか厳しい雰囲気のお話ではありますが、この重苦しさと向き合うのも競馬の味わいかなと思います。

わたしも多分、そういうところが本当は嫌いじゃないんだと思います。

だからわたしも、肩を落として夕暮れの競馬場を後にするということを何度経験しても、やっぱりまた競馬場に行ってしまうんだろうなー。

 

この小説では、競走馬が親から子へ夢をつなぎ馬主もまた親子で思いを受け継いで行くという、「継承」が大きなテーマになっていて、その「継承」の象徴として物語の中で大きな位置を占めるレースが「有馬記念」です。

もうすぐ有馬記念。

ちょうど季節感がシンクロしてより臨場感を味わえる今の時期に読むのがオススメの小説です。

 

こちらに、著者・早見和真さんのインタビュー動画があります。

なんとなく、この小説がまとう(良い意味で)重苦しい雰囲気の正体がわかるような動画になっていますよ。こちらもオススメです。

 

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