欅並子の馬ウマ日記

競馬歴28年で、東京競馬場が主戦の競馬ライター、欅並子(けやきなみこ)がいろいろ書いてます。競馬予想、競馬文化にまつわるいろいろな出来事を、私目線でレポートします。競馬って、馬券を当てる以外にもいろいろ楽しいこと、ありますよね!(馬券も当てたいけどね)ほぼ毎日更新。

小説「風の向こうへ駆け抜けろ」を読みました

こんにちは、欅並子です。

 

先日は小説「優駿」の話をしましたが。

もっと最近の競馬を扱った作品も読みたいなと思って、早速見つけたこちらの本を読んでみました。

 

風の向こうへ駆け抜けろ (小学館文庫) Kindle版

 

あらま。

Kindleで読んだので表紙をあまりまじまじと見ませんでしたが、主人公の相棒になる馬は青鹿毛とのことだったので、イラストの馬のたてがみが金色なのはちょっとイメージ違ってびっくりしました。

「輝いて見える」という内心の情景が現れているだけで、本当は黒いたてがみの馬なのだと思います。

馬の目が青いのは、小説の設定通りです。

魚目(さめ、と読みます)という珍しい色の目を持つ馬がいるのだそうです。

 

この小説は、地方競馬に所属している女性ジョッキーが、寂れたワケアリ弱小厩舎の仲間たちと手を取り合って、中央のG1に挑戦する物語です。

那須にある地方競馬の競馬学校を優秀な成績で卒業した主人公の女性ジョッキーが、「是非に」と誘われて斜陽感たっぷりの田舎の競馬場に赴任していくところから始まるお話。

古い男性社会に女性がひとりで入って行く際に感じるであろういろんな障壁や、あからさまな差別を受けるシーンもたくさん描かれています。

そもそも、主人公がそこの競馬場に誘われた理由自体が、客寄せのマスコット的な「かわいい女の子ジョッキー」としての利用価値によるものであったため、真剣にレースをして勝ちたいと思っている本人の考えとは大きなギャップがあり、前半ではその辺りの苦悩が中心に描かれています。

読者からすれば、読み始めた当初から「まあ、そうだろうなあ」という感じなのですが、ピュアでまっすぐな主人公は、その一つ一つに正面からぶつかって傷ついていくのです。

まあ、この辺でわたしは、子を持つ母親目線で「周りの大人がもうちょっとなんとかしてあげないと……」って、とてもヤキモキしてしまうのですが。

後半、ついに運命の馬との出会いがあり、そこをきっかけに主人公や周りの人たちの気持ちや人生が変化し始め、物語が大きく動きます。

数々の難関を乗り越えてチームはひとつになり、「運命の馬」は中央競馬の桜花賞への切符を手に入れるのでした。

 

と、まあ、そんなお話でございます。

特に前半はお決まりの展開が多くてありきたりな話と感じてしまうところもあったのですが、運命の馬を受け入れてから、主人公をはじめ、厩舎の人たちがそれぞれに変化していく描写には心を打たれるものがありました。

なにより、そのワケアリ弱小厩舎に長年所属していたという高齢の競走馬・ツバキオトメ(牝・18歳)という馬の存在がとても良かったです。

ツバキオトメと、主人公たちが連れてきた「運命の馬」が対峙するシーンで、彼女がとった行動と伝わってくる心の暖かさにはついつい涙してしまいました。

 

地方競馬から中央の牝馬クラシックへ挑戦、というモチーフで思い出すのは、1995年の桜花賞に出走したライデンリーダーという馬のことです。

彼女は、地方競馬・笠松所属のまま、牝馬クラシック三冠全てのレースに出走を果たしました。

1995年は、わたしが競馬を見始めた年でもありますが、その年は初年度のサンデーサイレンス産駒が元々注目を集めていた年でした。そんな中、桜花賞では地方からやってきたライデンリーダーが一番人気に推されたのでした。

この小説で、主人公たちが挑戦する桜花賞トライアルレースは「フィリーズレビュー」ですが、ライデンリーダーが桜花賞への切符を掴んだのも「報知杯4歳牝馬特別(G2)」、フィリーズレビューの前身のレースですね。

この小説を書かれる際に、その辺り少しはモデルにされた部分もあるのかもしれません。

 

わたしは競馬の小説が読みたくて「風の向こうへ駆け抜けろ」を手に取りましたが、各種レビューによると、「競馬を知らない人でも楽しく読める」とオススメされています。

逆に言えば、少し競馬を知っていると、逆にちょっとした表現に違和感を感じるようなところもあり、もしかしたら作者は逆に元はそれほど競馬に詳しくない方だったのかもと思いました。

だとしたら、なおのことよく取材されて書かれててすごいなと思いました。

なかなか面白かったので、気になった方は是非読んでみてくださいね。

そして、続編も出ているそうなので、わたしも続きを読みたいと思います。